第24回 写真『ひとつぼ展』審査会レポート
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第24回写真『ひとつぼ展』
公開二次審査会 REPORT
「自信はありました」迷いなく1点の写真を
展示した作品の力が群を抜いていた
■日時 2005年3月31日(木)18:10〜20:40
■会場 リクルートGINZA7ビル セミナールーム
■審査員
大迫修三(クリエイションギャラリーG8)
〈50音順・敬称略〉
■出品者
〈50音順・敬称略〉
■会期 2005年3月28日(月)〜4月21日(木)
男性6名、女性4名。久々に男性のノミネートが上回った
場内アナウンスが終わって審査開始を待つ一般見学者の中、どことなく緊張して入場する10名の出品者。展示会場で一人ひとりの作品を入念にチェックして入ってくる各審査員。第24回写真『ひとつぼ展』の公開二次審査会は、出品者のプレゼンテーションから始まった。本人によるプレゼンテーションの概略は以下の通り。
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藤岡
身近な生き物たちの死の写真の中に、レプリカを作って混ぜた。撮影しているうちに、生きているものと死ん
ブラジルで生まれた祖母が、引きあげてきた日本で、82歳で亡くなった。それを伝えるためブラジルに行った。ブラジルで祖母の姪に会ってから、夢中で写真を撮りはじめた。ビデオも回した。写真を見てもらうというより、自分がやった記録を見てほしい。
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浅原
前回の『ひとつぼ展』では天文学者の写真を出品したので、今回はその続編。若手生物学者の真実の姿を、『真実を積み重ねてその傍らで眠れ』というタイトルに込めた作品。この撮影のために、実際に信州大学に2日間ロケに行った。
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中村
ファインダーを通して撮っていないので、自分自身でも何を撮影したのかあまりわからない。写真に個人的な感展示写真は、お坊さん、ニューハーフの人、犬の3点。撮影したきっかけは、それぞれのモチーフが放つ匂いを自分が嗅ぎつけたのだと思う。個性的な人やモノを見ると、都会的な特殊な感じを受ける。レンズを向ける自分も特殊なのかもしれない。
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佐藤
写真は、現実をサンプリングしてできているものだと思う。それを、どう表現するかが自分のテーマ。広大な何か、宇宙的なものをいつも撮りたいという気持ちから、『広大な現象』というタイトルをつけた。
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川村
今、私が住んでいる四国、高知県のある風景を撮った。土地の外からは見えない、表面に出てこないものを写すのが、自分の写真ではないかと思う。夕方に感じるもの哀しさ、うち捨てられた感といったトーンをフォーカスした。
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諸星
2年間ずっと新宿・歌舞伎町を撮り続けている。これはデジタルカメラでの撮影作品。基本的に毎日出向き、わりとタンタンと記録的に撮っている。最初は新宿というイメージに惹かれたが、どんどん変わる街の風景に惹かれるようになった。
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熊田
去年、母親と妻への感謝の気持ちを作品にできないかと考えたら、これまで多くの人に支えられて生きてこれた事実をあらためて思い知った。いろんな人がいる夏の風景を写真でドキュメントにした。個展では街の延長のような展示をしたい。
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鈴木
ソナーは音波の反射で対象を測定する機械。自分にとっての写真は、世界を知るための道具。日常の中で、違和感を感じたときに写真を撮る。この1点の写真は、人やモノの形、光、色などが日常から違う世界へ変わったほんの一瞬を捉えた。
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岡村
京都という街の時間の流れや風景の移り変わりに興味があった。それで、京都に移り住んで京都を撮っている。ずっとあると思っていたものが、突然なくなっている。それがとても切なくて、興味深くもある。自分の写真で、それを残せたらいいと思う。
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イトウ
すべて自分の家の中で撮影した。子供の頃から自分の家が嫌いで、悪いことが起こると、すべて環境のせいにしていた。そんな自分と決別したくて撮り始めた写真。父のポートレイトを撮って、分かり合おうとしたが2月に急死してしまった。
全員のプレゼンテーションが終わったところで、審査員一人ひとりに全体的な印象を語ってもらった。まずは、原さん。「作品を見た感想は、考えられた作品が多いという印象だったが、プレゼンテーションを聞いて、そうでもないのかなと思った」と率直な感想。尾仲さんは「展示のしかたが気になった。大きく少ない点数でドンドンというのが多かったけど、どうだろう」と疑問符。宮本さんは「ポートフォリオと実際の展示ではまったく印象の違う人がいた。全体的に、もっと自分の想いを写真で表現してほしかった」と注文も。「今回は、これがやりたいというモチベーションがはっきりしている人が多かったね。ただ、展示はもっと考えた方がいいと思う」とは、平木さん。最後に大迫さんが「今回は男性が6名、女性が4名と、久々に男性のノミネートが女性を上回った。いつもとは逆という意味で新鮮かも」と出品者構成の変化に期待感。
「とても上手な人だと思う」「ただし、1点の展示はどうか」
全体評が終わって、各出品者について意見交換が行われた。プレゼンテーション順に、藤岡さんの作品について。「ポートフォリオとのギャップがあった」と開口一番、原さん。また、「自分を大事にしている人だね」と平木さん。
「いろいろと実験的なことをしているのはいいことだけど、もう少し自分の想いの過剰さを抑えることも大切」と宮本さんが言えば、大迫さんも「思い入れと作品の仕上がりにギャップがあった」と同意見。続いて、浅原さんの作品について。大迫さんが「前回の出品は天文学者の写真、今回が生物学者と、学者シリーズだが」と解説すると、すかさず宮本さんが「クラシック
なコンセプトだと思う。タイトルについては、かなり計算していると思う」と言えば、原さんが「写真的に、ギュッと詰まっているものが欠けているかな」との意見。尾仲さんは「全体の色合いで損している」。大迫さんは「被写体とくっつき過ぎない距離感が彼の持ち味かなとも思う」とさまざまな見方があり。平木さんは「もっと極端にアートに走ればいいのに」と表現に言
及する。モノクロで夜の街を撮った中村さんの作品について。宮本さんが「写真は力強いと思うが、前に見たことのある写真」と言えば、平木さんも「しかも以前見たことのある写真のレベルを超えていない」。尾仲さんは「展示のしかたを工夫するなどして、誰かと同じ写真だと言われないようにしたほうがいい。例えば、もっと圧倒的な数があるとか」とアドバイス。「自分の
写真をもっと認識したほうがいい」とは大迫さん。『広大な現象』というタイトルで4点を展示した佐藤さんの作品について。「展示が残念だった」と言う平木さんに続いて、宮本さんも「ポートフォリオを見たときの印象が、展示にはまったくなかった」と残念そう。「もっと深い考えがあるのかと思った」と大迫さんが言えば、「ポートフォリオには、ダイナミズムがうまくコンパクトにまとめられていた。展示はもう少しヤンチャになってもいいのでは」と平木さん。「無意味な大きさだった」と尾仲さんも手厳しい。地元の夕方の風景を多数展示した川村さんの作品について。「夕方に見えてくるものという捉え方が、とてもおもしろいと思った。古代人の1日は夕方が始まりだったという説もある」と宮本さん。「このシリーズは、本にして手元で見たい」とは尾仲さん。大迫さんが「自分がそこに住んで、好きでも嫌いでもないという距離感がいいね」と土地に触れると、平木さんが「この地域を30年前に旅行したことがある。この土地を表現するのに、川村さんが写真と出会ったのがうれしいと思った」と喜ぶ。歌舞伎町を4点の写真とモニターでスライドショー的に見せた諸星さんの作品について。原さんが「イケてるんじゃないかと思う」と言い、平木さんが「モニターの使い方もよかった」と褒める。「もっと写真の数がほしかった」と尾仲さんが言えば、「夜の都会の顔という既成概念を打ち破ってほしい」と大迫さん。平木さんは「写真を毎日アップするというWEBの使い方もおもしろいね」と興味津々。そして、夏の風景を多数展示した熊田さんの作品について。「展示は少しキッチュな感じがした。本人がさまよっている感じがよくわかっておもしろいと思う」と平木さん。「色合いが強烈すぎる」とは尾仲さんの印象。原さんは「ポートフォリオでは撮りたいという気持ちが強く見えたが、展示ではその気持ちが見えなかった」とギャップを語る。「全部タテ位置というのはどうか」とは宮本さん。ある公園での親子の光景を1点だけ展示した鈴木さんの作品について。宮本さんは「とても上手な人だと思う。しかし1点だけの展示というのが……」。尾仲さんは「こういう場所に出会う機会がよくあったなと思う」と感心。平木さんは「もっと冒険してもいいのでは」との意見。「構図もうまいし写真の完成度が高い。しかし1点の展示はどうか」と大迫さんも評価しながら展示に苦言。京都の街の変化を撮った岡村さんの作品について。「僕が撮らないタイプの写真だけど、好き」とは尾仲さん。「京都という場所で、よく撮りためたなと思う。しかし、コンセプトに新鮮さがない」とは宮本さん。実家のいろんなものを撮ったイトウさんの作品について。原さんが「自分の内面を撮るか、外側を撮るか……」と言えば、「この後、どこに行こうとしているのか、展示もストレートに見えるが、かなり計算している」と尾仲さん。宮本さんが「ディテールもうまい」と言えば、「きっと、この人の家の周辺にはモチーフがたくさんあるんだと思う」と平木さん。「この家自体がおもしろいんだと思う」と大迫さんもモチーフのユニークさを褒める。
「いろんな想いを表現するのに写真と出会った」「写真は群を抜いている」
全員に対する意見交換が終わったところで、審査員にグランプリ候補を3名ずつ挙げてもらう。結果は、
尾仲/諸星 鈴木 イトウ
原 /川村 諸星 鈴木
平木/浅原 川村 諸星
宮本/浅原 川村 鈴木
大迫/川村 諸星 鈴木
これを集計すると、
川村/4票 諸星/4票 鈴木/4票 浅原/2票 イトウ/1票
「川村さん、諸星さん、鈴木さんが4票で並んだので、この3人で決戦投票をしましょう」と大迫さんが進行して、各審査員に、一番いいと思った人の応援演説をしてもらう。まずは、原さんが「僕のイチ押しは、鈴木さん」と迷わず言い、続いて大迫さんが「川村さんには多少の不安がある、鈴木さんは安心できる。ただ、一年後にどこへ行くかわからない点で、諸星さんがイチ押し」と一年後の個展を見据えて発言。平木さんは「諸星さんは身体を張っているおもしろみがあると思う。しかし、イチ押しは川村さん。いろんな想いを表現するのに写真と出会ったというところがおもしろい」と言えば、「圧倒的に鈴木さんが一番、写真は群を抜いている」というのは尾仲さん。最後に、宮本さんは「川村さんの感性はすごいと思う。鈴木さんは確かに写真は圧倒的だと思うが、1点だけの展示はマイナスポイント」と明言を避ける。ここで、平木さんが「『ひとつぼ展』は公開審査をしている手前、リスキーでも若い感性を発掘していきたいよね」と発言すると、宮本さんが「今後の鈴木さんも見てみたい気がする」と鈴木さんを押す。大迫さんは「プレゼンテーションで心惹かれるものがなかった」と、鈴木さんを押す意見に一石を投じる。一通りの意見が出終わったところで、大迫さんが「では、ここで、グランプリ候補を一人ずつズバリ表明してもらいましょう」と審査は大詰めを迎える。
結果は、
川村/1票(平木)
諸星/1票(大迫)
鈴木/3票(尾仲、原、宮本)
「はい、決まりました。グランプリは鈴木さん」と、大迫さんが宣言して、最後はすんなりと決定。見事グランプリを受賞した鈴木さんが「ありがとうございます、いままで写真に夢中になって走ってきました。一年後の個展も一生懸命がんばります」とあいさつして公開審査会は終了した。
「今の気持ちは、感激20%、反省80%」
最後の3人に残って惜しくもグランプリに届かなかった諸星さんにインタビューした。「最後まで残って光栄です。グランプリの鈴木さんは受賞して当然だと思います。もっと力をつけて、また別のカタチで発表したいですね」とサバサバした表情で答えてくれた。それから、もう一人のグランプリ候補、川村さんは「作品の展示がいちばん難しかったです。今後も今のテーマを撮り続けたい」と、囁くように答える。2票を獲得した浅原さんは「前回の出品時よりも自分の成長を実感できました。グランプリ作品は圧倒的だと思うので、まだまだがんばろうと思います。次の学者シリーズに期待してください」と、新たな意欲を語ってくれた。1票獲得したイトウさんは「票が入ってうれしかった、貴重な経験をさせてもらいました。私の写真が次にどこへ行くのか、私自身にもまだわかりません。でもまた、がんばりたいです」と明るく答える表情が印象的。藤岡さんは開口一番「楽しかった。十分に楽しみました。展示は自分なりによくできたと思っています。プレゼンテーションは難しいですね」と安堵の表情で答えてくれた。中村さんは「自分の個性を出し切ったつもりだったが、まだ力が足りないということ。これからは、人に見せるということを意識していきたいですね。自分の写真のスタイルを続けながらオリジナリティーを出していきたい」と前向きに語ってくれた。佐藤さんは「今のまま続けていきたいですね、展示とプレゼンテーション、次の課題です」と飄々と答える。熊田さんは「展示やプレゼンテーションで、よけいなことをしてしまいました。また違ったテーマで撮りたいし、展示で感じてもらえるような撮り方も考えたいですね」と反省の弁ともとれる内容。岡村さんは「緊張しました。展示については
やりたいことができました。まだこのテーマはやり始めたばかりなので、続けていきたいです」と作品には満足の表情。そして、パーティー会場のあちこちで祝福攻めに遭っているグランプリの鈴木さんに聞いた。「自分の作品に自信はありました」と余裕のコメント。しかし、続けて「今の気持ちは、感激20%、反省80%です。自分の想いと作品との距離感を縮めていくことがこれからの課題です。もっと自分の写真に対して考えていきたいと思っています」と、グランプリ受賞にも全然浮かれていない。この向上心こそ、自分の作品にここまで自信を持てる秘密かもしれない。「一年後に今以上の作品を展示できる期待感がある」と冷静に語る彼の言葉に、こちらも期待せずにはいられない。
<文中一部敬称略 取材・文/田尻英二>